脳性麻痺に関する産科医療補償制度の補償申請について

補償対象基準に関する参考事例

(1)一般審査の基準

【参考事例 — 1】

在胎週数39週、出生体重3300g。妊娠・分娩経過は特に異常を認めず、臍帯動脈血のpH値は7.25であった。出生時に新生児仮死は認めず、生後の経過も順調で母児ともに退院した。1ヶ月健診時に著明な頭囲発育不良を認めたため、頭部CTを施行したところ多嚢胞性脳軟化症を認めた。明らかな先天性要因や新生児期の要因は認めないことから、除外基準には該当しないと判断され、重症度の基準は満たしていることから補償対象と判定された。

ポイント!

産科医療補償制度では、先天性要因や新生児期の要因による脳性麻痺ではない場合(除外基準に該当しない場合)は、「分娩に関連して発症した」として取り扱っています。一般審査の基準を満たしている児については、分娩時の児の低酸素状況や出生時の仮死の有無に関わらず、除外基準に該当せず重症度の基準を満たせば補償対象となります。


(2)個別審査の基準(2014年12月31日までに出生した児)

【参考事例 — 2】

在胎週数31週、出生体重1800g。母が胎動減少の自覚があり受診した後、胎児心拍数モニターおよびエコー所見より胎児機能不全と診断され、緊急帝王切開で新生児仮死の状態で出生した。臍帯動脈血ガス分析は実施できなかった。補償対象基準の二-(二)に記載されている低酸素状況の前兆となるような具体的な病態までは特定できなかったが、胎児心拍数モニターでは、心拍数基線細変動の消失および子宮収縮の50%以上に出現する変動一過性徐脈を認め、臍帯圧迫等の突発的な病態があったと考えられることから、補償対象基準(個別審査の基準)を満たしていると判定された。

ポイント!

分娩時に低酸素状況を引き起こしたと考えられる前置胎盤、常位胎盤早期剥離、子宮破裂、子癇、臍帯脱出等の具体的な病態が明確でない(特定できない)場合でも、所定の胎児心拍数パターンが認められ、かつ突発的に胎児の低酸素状況を引き起こす可能性が高い病態(本事例においては臍帯圧迫等)があったと審査委員会において判断されるときは、補償対象基準(個別審査の基準)を満たします。


【参考事例 — 3】

在胎週数31週、出生体重1700g。自宅で規則的な子宮収縮があり、救急車を要請した。分娩兆候を認めたため、救急隊が医師の電話指示に従って分娩介助により(分娩機関管理下)、出生した。胎児心拍数モニター、臍帯動脈血ガス分析のいずれも実施できなかったが、救急隊の記録より胎児が低酸素状態となっていたことが示唆され、またNICU入院時の児の血液ガス分析においてpH値6.7台と重度のアシドーシスが認められることから、分娩中に所定の低酸素状況が生じていたことは明らかであり、補償対象基準(個別審査の基準)を満たしていると判定された。

【参考事例 — 4】

在胎週数31週、出生体重1300g。自然破水後の内診で臍帯脱出を認め、胎児ドップラーで児心音聴取できず、緊急帝王切開で出生した。アプガースコアは1分値0点、5分値1点であった。胎児心拍数モニター、臍帯動脈血ガス分析は実施していないが、緊急性に鑑みるとこれらのデータが取得できなかったことは合理的な事情があったと認められ、かつ胎児に突発的に低酸素状況が生じていたことが診療録等から明らかであり、データを取得できていれば補償対象基準を満たす蓋然性が極めて高いと考えられ、補償対象基準(個別審査の基準)を満たしていると判定された。

ポイント!

分娩時の低酸素状況を証明するデータがない場合は、補償対象基準を満たすことが証明できないため、原則として補償対象外となりますが、①緊急性等に照らして考えると、データが取得できなかったことにやむを得ない合理的な事情があり、②診療録等から、胎児に突発的な低酸素状況が生じたことが明らかであると考えられ、③仮にデータを取得できていれば、明らかに補償対象基準を満たしていたと考えられる(補償対象基準を満たしていた高度の蓋然性がある)場合には、補償対象基準(個別審査の基準)を満たします。
なお、参考事例④については、2015年1月1日以降に出生した児の場合は、補償対象基準が異なることから、「アプガースコア1分値3点以下」であることをもって、補償対象基準(個別審査の基準)を満たします。


【参考事例 — 5】

在胎週数30 週、出生体重1200g。胎児機能不全の診断のため緊急帝王切開で出生した。臍帯動脈血のpH値は7.20であった。分娩機関としては、分娩前の胎児心拍数モニターにおいて所定の胎児心拍数パターンは認められないと考えるものの、明らかな徐脈が確認できなくても胎児機能不全と判断できる事例であるとして補償申請された。審査委員会による分娩前の胎児心拍数モニターの判読では、心拍数基線細変動の消失を認め、子宮収縮の50%以上に出現する変動一過性徐脈を認めるため、補償対象基準(個別審査の基準)を満たしていると判定された。

【参考事例 — 6】

在胎週数31週、出生体重1500g。母体の一絨毛膜二羊膜双胎の妊娠管理中、在胎週数27週頃より双胎間の体重差を認めていた。在胎週数31週のTTTSスコアは3点であった。胎児心拍数モニターにおいて本児(受血児)には胎児心拍数異常は認めなかったが、他児(供血児)に変動一過性徐脈が散見されたことから、緊急帝王切開となった。アプガースコアは1分値8点、5分値9点、臍帯動脈血のpH値は7.31であった。本児は胎児心拍数モニターにおいても所定の波形パターンは認められないため、補償対象基準(個別審査の基準)を満たさないと判定された。

【参考事例 — 7】

在胎週数31週、出生体重1600g。母体の前置胎盤の管理入院中、外出血が認められ、緊急帝王切開で出生した。アプガースコアは1分値7点、5分値8点、臍帯動脈血のpH値は7.29であった。胎児心拍数モニターにおいても、所定の波形パターンも認められないことから、補償対象基準(個別審査の基準)を満たさないと判定された。

ポイント!

胎児心拍数モニターにおいて所定の波形パターンを認めるかどうかの最終的な判断は、審査委員会において行います。
なお、参考事例⑤については、2015年1月1日以降に出生した児の場合は、補償対象基準が異なることから、「心拍数基線細変動の消失」または「子宮収縮の50%以上に出現する変動一過性徐脈」のいずれか一方のみでも補償対象基準(個別審査の基準)を満たします。


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