脳性麻痺に関する産科医療補償制度の補償申請について

除外基準(先天性要因)に関する参考事例

(1)染色体異常、遺伝子異常または先天性代謝異常

【参考事例 — 1】

在胎週数36週、出生体重2300g。常位胎盤早期剥離疑いのため緊急帝王切開で出生した。新生児仮死を認め、頭部画像検査では低酸素・虚血を示す所見があった。染色体検査において21トリソミーを認めた。
妊娠・分娩経過や頭部画像検査等から総合的にみると、染色体異常(21トリソミー)が重度の運動障害の主な原因であることが明らかではなく、また他に重度の運動障害の主な原因となる先天性要因の存在についても明らかではないと判断され、除外基準に該当しないと判定された。

【参考事例 — 2】

在胎週数37週、出生体重3000g。予定帝王切開で出生した。胎児心拍数モニターでは分娩時の低酸素状況を示唆するような所見を認めなかった。アプガースコアは1分値8点、5分値9点であった。出生直後から筋力低下があり、染色体検査において21トリソミーを認めた。4歳時点で独歩不可能であるが徐々につかまり立ちが出来ており、重度知的障害が認められた。頭部画像検査では、低酸素・虚血を示す所見はなかった。
妊娠・分娩や生後の経過、臨床所見、検査データ等から総合的にみると、重度知的障害を伴う染色体異常(21トリソミー)が、重度の運動障害の主な原因であることが明らかであるとされ、除外基準に該当すると判定された。

ポイント!

染色体異常、遺伝子異常または先天性代謝異常が除外基準に該当するかどうかについては、妊娠・分娩や生後の経過、臨床所見、検査データ等から総合的に判断しています。染色体異常、遺伝子異常または先天性代謝異常が重度の運動障害の主な原因であることが明らかである場合は、除外基準に該当します。


【参考事例 — 3】

在胎週数37週、出生体重2900g。新生児仮死なく出生した。全身状態に問題なく退院し、退院後も体重増加も良好であった。6ヶ月健診まで異常の指摘はなかったが、その後に軽度の運動発達の遅れを認めた。生後10ヶ月時にけいれんを認め受診し、低血糖、代謝性アシドーシスを認めたため入院となった。入院時の乳酸・ピルビン酸値が著しく高値であったが、遺伝子検査、有機酸・脂肪酸代謝異常検査では異常を認めなかった。頭部画像検査では、大脳基底核・大脳皮質に信号異常を認め、急性期の脳障害の所見であると判断された。運動発達は獲得していた頚定が不可能な状態となり、退行を認めた。
妊娠・分娩や生後の経過、臨床所見、検査データ等から総合的にみると、これらの症状は分娩とは無関係に発症したものと考えられ、乳酸・ピルビン酸値を含む臨床経過から先天性代謝異常等の先天性要因の存在が明らかであると判断された。また、生後10ヶ月の入院以降、頚定も不可能となっていることから、その先天性要因により発症した脳障害が重度の運動障害の主な原因であることが明らかであると判断され、除外基準に該当すると判定された。

【参考事例 — 4】

在胎週数40週、出生体重3000g。新生児仮死なく出生した。全身状態に問題なく退院し、退院後の体重増加も良好であった。頚定6ヶ月、寝返り8ヶ月、四つ這い2歳5ヶ月と運動発達の遅れを認めた。精査の結果、染色体検査や頭部画像検査では異常を認めなかったが、遺伝子検査では、A遺伝子の異常を認めた。診断時年齢は4歳0ヶ月、痙直型脳性麻痺の診断でバビンスキー反射はなく、深部腱反射は亢進していた。運動発達はつかまり立ちが可能であった。
妊娠・分娩や生後の経過、臨床所見、検査データ等から総合的にみると、A遺伝子の異常については、目の異常をきたすことは知られているが重度の運動障害との関連を示す既知の報告はないことから、重度の運動障害の主な原因であることが明らかではないと判断された。また他に重度の運動障害の主な原因となる先天性要因の存在についても明らかではないと判断され、除外基準に該当しないと判定された。

ポイント!

先天性要因が除外基準に該当するかどうかについては、妊娠・分娩や生後の経過、臨床所見、検査データ等を踏まえ、総合的に判断しています。
染色体異常や遺伝子異常等が認められなくても、先天性要因の存在が明らかであり、かつ、その先天性要因が重度の運動障害の主な原因であることが明らかである場合は、除外基準に該当します。一方、染色体異常や遺伝子異常等が認められていても、その染色体異常や遺伝子異常等が重度の運動障害の主な原因であることが明らかではない場合は、除外基準には該当しません。


(2)先天異常

【参考事例 — 5】

在胎週数38週、出生体重2700g。新生児仮死なく経腟分娩で出生した。生後の頭部エコーでは、脳室拡大を認めていたが、神経学的所見は認めなかったため、日齢5に退院した。徐々に運動発達の遅れや痙性を伴う所見を認めた。生後8ヶ月時に寝返りができないため小児科を受診したところ、頭部画像検査で裂脳症の所見を認めた。
裂脳症は、形成段階で生じた脳の形態異常であり、かつ、それが重度の運動障害の主な原因であることが明らかであるとされ、除外基準に該当すると判定された。

ポイント!

「両側性の広範な脳奇形」以外の脳の形態異常が除外基準に該当するかどうかについては、形成段階で生じた脳の形態異常であるかどうかについて、妊娠・分娩や生後の経過、臨床所見、頭部画像等から総合的に判断します。脳の形態異常が形成段階で生じたことが明らかであり、かつ、その脳の形態異常が重度の運動障害の主な原因であることが明らかである場合は、除外基準に該当します。
なお総合的に判断する際には、頭部画像所見においては放射線科専門医など各分野の専門家の見解も踏まえて判断しています。


【参考事例 — 6】

在胎週数40週、出生体重3000g。分娩経過中、胎児心拍数モニターでは頻発する高度徐脈を認めていたが、出生時に新生児仮死は認めなかった。日齢2に全身蒼白、あえぎ様の呼吸があった。頭部画像検査では頭蓋内出血があり、頭蓋内出血と同じ部位に血管の形態異常が疑われる所見を認めた。
妊娠・分娩や生後の経過、臨床所見、頭部画像検査等から総合的にみると、血管の形態異常は、生じた時期や原因が不明で先天的な血管の形態異常であることが明らかではないことや、頭蓋内出血の主な原因であることが明らかではないことから除外基準に該当しないと判定された。

ポイント!

先天性要因の存在が明らかでない場合や、先天性要因が存在してもその先天性要因が重度の運動障害の主な原因であることが明らかでない場合は、除外基準には該当しません。
なお、本事例のように頭蓋内出血をきたした原因が先天性であるかどうか等については、放射線科専門医などの見解も踏まえて総合的に判断しています。


【参考事例 — 7】

在胎週数41週、出生体重3000g。胎児心拍数モニターでは頻発する高度徐脈を認め、吸引分娩で出生した。アプガースコアは1分値2点、5分値1点であった。臍帯動脈血ガス分析は実施なし。気管挿管後に左横隔膜ヘルニアの診断で新生児搬送された。頭部画像検査で大脳基底核・視床に信号異常を認めた。
妊娠・分娩や生後の経過、臨床所見、頭部画像検査等から総合的にみると、胎児心拍数モニター等から分娩時の低酸素を示す所見を認め、児は出生前からすでに低酸素状況にあったと考えられることから、左横隔膜ヘルニアが生後の呼吸・循環動態に影響し脳障害の増悪因子となっていたことが考えられるが、脳障害の主な原因であることが明らかではないとされ、除外基準に該当しないと判定された。

【参考事例 — 8】

在胎週数38週、出生体重2800g。予定帝王切開で出生した。胎児心拍数モニターでは胎児心拍数異常は認めなかった。アプガースコアは1分値7点、5分値9点であった。臍帯動脈血ガス分析は実施なし。出生後より呼吸障害があり、器内酸素35%の保育器で経過観察していたところ、心肺停止となった。気管挿管や胸骨圧迫の実施後に新生児搬送となり、左横隔膜ヘルニアと診断された。頭部画像検査では大脳基底核・視床に信号異常を認めた。
妊娠・分娩や生後の経過、臨床所見、頭部画像検査等から総合的にみると、胎児心拍数モニター等から分娩時の低酸素状況を示す所見を認めず、また新生児仮死なく出生していることから、左横隔膜ヘルニアが脳障害の主な原因であることが明らかであると判断され、除外基準に該当すると判定された。

ポイント!

脳以外の先天異常に該当すると考えられる疾患等(先天性心疾患や先天性横隔膜ヘルニア等)が除外基準に該当するかどうかについては、それが「脳性麻痺の原因となり得る分娩時の事象」の主な原因であることが明らかであり、かつ、その分娩時の事象が重度の運動障害の主な原因であることが明らかである場合は、除外基準に該当します。


(3)妊娠中の要因

【参考事例 — 9】

在胎週数30週、出生体重2000g。経腟分娩で出生した。新生児仮死は認めなかった。生後の検査で眼底病変を認め、精査で先天性ヘルペス感染症と診断された。頭部画像検査で右優位の脳実質の欠損を認めたが、脳回形成異常など他の所見は認めなかった。
右優位の脳実質の欠損は、先天性ヘルペス感染症によって生じた形態異常と考えられたが、脳回形成異常などの形成段階で生じた脳の形態異常は認めず、右優位の脳実質の欠損が脳の形成段階で生じたことが明らかではないとされ、除外基準に該当しないと判定された。

【参考事例 — 10】

在胎週数40週、出生体重2400g。経腟分娩で出生した。出生時の頭囲は-2.5 SD(標準偏差)であった。生後の頭部エコーで側脳室後角拡大を認めた。精査でサイトメガロウイルス感染症と診断された。頭部画像検査で脳回形成異常を認めた。
脳回形成異常は、サイトメガロウイルス感染症によって生じた形態異常と考えられ、脳の形成段階で生じたことが明らかであるとされた。また、脳回形成異常が重度の運動障害の主な原因であることが明らかであると判断され、除外基準に該当すると判定された。

ポイント!

TORCH症候群(トキソプラズマ、風疹ウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス感染症等)、TTTS(Twin-to-twin transfusion syndrome:双胎間輸血症候群)、胎児母体間輸血症候群(母児間輸血症候群)等については、それらの疾患による脳の形態異常が、形成段階で生じたことが明らかであり、かつ、その脳の形態異常が重度の運動障害の主な原因であることが明らかな場合、除外基準に該当します。


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