脳性麻痺に関する産科医療補償制度の補償申請について

重症度の基準に関する参考事例

(1)下肢・体幹運動

【参考事例 — 1】

0歳10ヶ月の診断において、頚定および腹臥位での頭部挙上が可能とされたが、頭部画像や全身写真等より総合的に判断すると、これらは筋緊張亢進の影響によるものであることから将来実用的な歩行が不可能であると考えられ、重症度の基準を満たしていると判定された。

【参考事例 — 2】

2歳時の診断において、下肢は支持立位で尖足となりやすく、坐位にさせると保持できるようになってきているが、自力での体位変換は不可であり、生活はほぼ全介助を要するとされた。寝返り不可、下肢に尖足、筋緊張亢進を認めることから、将来実用的な歩行が不可能であると考えられ、重症度の基準を満たしていると判定された。

【参考事例 — 3】

3歳時の診断において、下肢を交互に動かしての四つ這いが可能であるとの診断であった。しかし、提出された動画では四つ這いは可能であるものの、四つ這いのパターンとして、下肢屈曲時の足関節の共同性背屈が強いこと等から、将来実用的な歩行が不可能であると考えられ、重症度の基準を満たしていると判定された。

【参考事例 — 4】

4歳時の診断において、下肢装具を使用せずに10歩、歩いて停止し、転ばずにもと居た場所に戻ってくることはかろうじて可能であるが、痙性が強く、重症度について基準を満たすかどうか判断が難しく、補償申請時に診断医が撮影した動画もあわせて提出された。提出された動画では、痙性麻痺のため歩行および停止が不安定であり、将来実用的な歩行が不可能であると考えられ、重症度の基準を満たしていると判定された。

【参考事例 — 5】

4歳時の診断において、床から支えなく立位をとることは可能、歩行時に運動失調や不随意運動が認められるもののなんとか10歩程度歩いて戻ってくることが可能との診断であった。審査委員会において、重症度の基準を満たしているかどうかの判断が難しいことから、歩行の様子を撮影した動画の提出が必要とされた。提出された動画では、歩行時に運動失調と不随意運動を認め、歩行および停止が不安定であり、将来実用的な歩行が不可能であると考えられ、重症度の基準を満たしていると判定された。

ポイント!

重症度の基準については、脳性麻痺の型、麻痺部位、合併症等の診断書所見、および写真や動画等に基づき審査を行い、総合的に判断して、身体障害者障害程度等級1級・2級相当の状態が5歳以降も継続することが明らかである場合に、重症度の基準を満たします。
「重症度の基準」の判断目安は、「『補償対象となる脳性麻痺の基準』の解説」や「補償申請検討ガイドブック」をご覧ください。
なお、将来的に実用的歩行が可能となるかどうかについて動画により判断する場合もあります。


(2)上肢運動

【参考事例 — 6】

3歳時の診断において、下肢・体幹運動に関しては、床から立ち上がり立位をとること、および下肢装具を使用せずに10歩、歩いて停止し、転ばずにもと居た場所に戻ってくることが可能であった。上肢運動に関しては、右上肢の運動機能が全廃であった。下肢・体幹運動においては重症度の基準を満たしていないが、上肢運動においては右上肢の運動機能が全廃であることから、一上肢のみの障害で、重症度の基準を満たしていると判定された。

【参考事例 — 7】

3歳時の診断において、下肢・体幹運動に関しては、歩行補助具を使用して介助なしに移動することが可能であった。上肢運動に関しては、右上肢は手を開くことが困難であり、左上肢は少しの間、物をつかむことは出来るものの、手を伸ばして物をつかむこと、指先で小さな物をつまむこと、スプーンを持つこと等が困難であった。
下肢・体幹運動においては重症度の基準を満たしていないが、上肢運動においては脳性麻痺による運動機能障害により両上肢は著しい障害に該当し、食事摂取動作が1人では困難で、かなりの介助を要する状態であると考えられることから、両上肢の障害で、重症度の基準を満たしていると判定された。

ポイント!

下肢・体幹運動において重症度の基準を満たしていない場合でも、上肢運動について基準を満たしている場合は、一上肢のみの障害または両上肢の障害により重症度の基準を満たすと判断します。
上肢のみの障害で補償申請が行われる場合は、3歳未満では診断や障害程度の判定が困難であるため、原則として3歳以降の診断にもとづいて判断しています。


(3)下肢・体幹および上肢運動

【参考事例 — 8】

4歳時点で右片麻痺と診断され、下肢・体幹運動に関しては、下肢装具を使用せずに10歩、歩いて停止し、転ばずにもと居た場所に戻ってくることが可能であった。上肢に関しては、右上肢は全廃とは言えず、左上肢は小さな物を親指と人差し指の指先でつまむ動作等が可能であり、下肢・体幹運動と上肢運動それぞれ単独では重症度の基準を満たしていないと判断された。
しかし右片麻痺であることから、下肢・体幹運動および上肢運動の総合的な判断が必要とされ、提出された動画を確認したところ、下肢・体幹運動に関しては、手すりにすがらなければ階段を上がることが困難であり、上肢に関しては、手を伸ばして近くのものをつかむことや玩具等を持ち替えること等の動作が不可能な状態であった。総合的に判断した結果、下肢・体幹運動および上肢運動の両方に著しい障害があることから、重症度の基準を満たすと判定された。

ポイント!

下肢・体幹運動および上肢運動について、それぞれ単独では重症度の基準を満たしていない場合でも、下肢・体幹運動および上肢運動の両方に著しい障害(片麻痺等)がある場合、総合的にみて重症度の基準を満たすと判断します。
下肢・体幹運動および上肢運動の総合的な判断が必要となる場合、4歳未満では診断や障害程度の判定が困難であるため、原則として4歳以降の診断および動画にもとづいて判断しています。


(4)再申請をして重症度の基準を満たすと判断された事例

【参考事例 — 9】

1歳時の診断において、寝返りや腹臥位で頭部を挙上(3秒以上)することが可能な状態であった。1歳の診断時点では重症度の基準を満たしてはいないが、診断書記載内容や全身写真より総合的に判断して、身体障害者障害程度等級1級・2級相当の状態が5歳以降も継続する可能性が示唆され、将来の障害程度の判定が困難であることから補償対象外(再申請可能)と判定された。
4歳時の診断において、つかまり立ち、伝い歩きまで可能となったが、実用的な移動は四つ這いの状態であり再申請がなされた。提出された動画より、伝い歩きは不安定であり、頚部は後屈していることが多く、歩行器を使用しての歩行は不安定な状態であり、重症度の基準を満たしていると判定された。

ポイント!

審査の時点では、重症度の基準を満たすと判断できないものの、申請期限内に重症度の基準を満たす可能性がある場合は、補償対象外(再申請可能)とし、判断が可能となると考えられる時期をお示しします。
この場合も、補償申請の期限は、満5歳の誕生日となります。


PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Reader® が必要です。
Adobe Reader®(無料)をダウンロード新しいウィンドウが開きます、インストールしてご利用ください。

ADOBE READERのダウンロード